主人公 「まさしく、隣の芝生はきれいに見える、だね」 うーにゃんは読んでいた新聞から目を離し、つぶやいた。うーにゃんは起き抜けにモンプチを一袋食べ、温めのカフェオレを飲みながら新聞を読むのが習慣だ。 「どうしたの? やぶからぼうに」 みゆが訊くと、うーにゃんは新聞をみゆに差し出し…
順逆不二 今日はみゆも仕事で関わった、ある有名な栄養学者の講演会だ。うーにゃんも含め、家族総出で来ている。 「あ、あの、ペットはご遠慮いただいているのですが」 受付係の女性はうーにゃんを見ると、パパにそう言った。 「これはペットじゃない。うーにゃん先生だよ」 「……はあ?」…
薫風自南来 今日はみゆがアシスタントを連れてくる日。うーにゃんは、少し緊張している。 「ただいまぁ」 みゆが帰ってきた。みゆについてきた人は小柄で細おもて。どことなく、佇まいがある昭和のアイドルに似ている。 「しつれいしまぁす」 彼女が履物をきちんとそろえるのをうーにゃんは…
鉄槌舞春風 いつものように気持ちよさそうに眠っていたうーにゃんは、電話のベルで起こされた。振り込め詐欺に遭ってはいけないから電話には出なくていいとパパから言われていたうーにゃんだが、なんとなく勘が働き、受話器をとった。案の定、みゆからだった。 「どうしたの、みゆ?」 「うーにゃん先生、…
前後際断と一行三昧 「ただいま」 みゆがそう言って玄関を開けた時、うーにゃんが玄関先で待っていた。 「おかえり」 「あれ? わたしが帰ってくるの、なんでわかったの?」 「楽しそうに帰ってくる時は、なんとなくわかるんだよ」 ほんとうにそんなことがあるのかな? みゆは腑に…
一句妙文永劫助 今日は家族4人で神楽坂のイタリアンで夕食を楽しみ、いま、神楽坂を歩いている。 「あれ? いますれちがった人、村田諒太じゃない?」 振り返りながらパパが言った。 「あら、ほんとう。かっこいいわね」 ママの声も弾んでいる。 「村田諒太ってだれ?」 若…
本来無一物 無一物中無尽蔵 ふだん新聞を読まないみゆが、珍しく日経新聞を見ている。 「おもしろい記事、あった?」 「経済の記事ばかりだからあんまり読むところないかも」 「経済情報を得るための新聞だからね」 みゆは新聞を横にしたり斜めにしたり裏返したりして、ふ〜んとつぶやく。…
失意泰然 得意淡然 「なんかさあ、きょうのうーにゃん、態度大きくない?」 みゆはママにそっと耳打ちした。 たしかにそうだ。椅子に浅く座り、ふんぞり返っている。ママはくすんと笑って、みゆの耳元でひそひそと言った。 「あの本ができたからじゃない?」 「ああ、そうかも」 ふ…
桃李不言 下自成蹊 久しぶりに家族全員揃い、夕食が始まった。まずはビールで乾杯。そのあと、日本酒を1合強。銘柄は「丹沢山」か「出羽桜」「大七」。基本的に、精米歩合を抑えた純米酒で、1年以上蔵で熟成させたものを選んでいる。 うーにゃんは、アルコールを分解する能力がないため、ノンアルコールビール…
春色無高下 花枝自短長 ファッション雑誌をめくりながら、みゆがつぶやいた。 「いいなあ、こんなに肌がきれいで。脚も長いし」 「この人、八頭身じゃない? いいなあ……」 「こんなにきれいな人に生まれたら、人生変わるんだろうね」 みゆの部屋の片隅で昼寝を決め込んでいたうーにゃん…